Phrase TMSの導入で製品開発サイクルの加速を支援

Case study featured image Cybozu | Phrase

サイボウズ株式会社は、「チームワークあふれる社会を作る」というミッションを掲げ、 チームの情報共有やコミュニケーションを促進するクラウドベースのグループウェアの開発・販売のほか、企業・組織に向けたチームワーク研修などの事業も手がけています。

課題

「ヘルプ」ドキュメント制作ワークフローの改善:従来型のCMS管理

サイボウズ株式会社のテクニカルコミュニケーションチームは、製品のUI文言の設計や、ヘルプサイトやリリースノートなどのドキュメント制作、それらの翻訳やローカライズなどの業務を担う部署です。

同チームでは、日本語版のドキュメントを作成し、それを英語・中国語に翻訳する業務において、これまではCMS(コンテンツ管理システム)を使って、制作やサイト運用を行なっていました。

翻訳のプロセスでは、記事が更新されるごとに、PDFファイルに出力し、記事作成者が変更箇所を手作業でハイライトして翻訳者に渡していました。翻訳者は受け取ったファイルをひとつひとつ開いてハイライト箇所を確認し、手元のパソコンで変更部分を翻訳します。それを再び手作業でCMSに入力して、HTMLに変換するという手順を踏んでいました。つまり、20ページ分の更新があれば、20個のPDFファイルを用意する必要があり、大量の手作業が発生するほか、人間による手作業のため、ハイライトし損ねたり、変更箇所を見落としたりするなどして、翻訳が漏れるミスもたびたび起こっていました。

アジャイル開発による高速化への対応

また、サイボウズ株式会社では、ソフトウェア製品開発の新しい手法として、アジャイル開発の導入を始めていました。アジャイル開発とは、短い開発サイクルを何度も繰り返し、当初の仕様にこだわらず、状況に応じて柔軟に変更を加えることで、迅速に開発を進める手法です。

この高速化された開発サイクルに、ドキュメント制作と翻訳のプロセスを間に合わせるには、従来の手作業による管理では難しいことが明らかになりました。そこでテクニカルコミュニケーションチームは、以下のような方法で、ドキュメントサイトの基盤を大幅に刷新することを決めました。

ソリューション

Gitによるバージョン管理と、Phrase TMSによる差分管理

同チームでは、制作プロセスを効率化するために、差分の管理をシステムに任せようと考えました。まず、コンテンツをGitで管理することにしました。これにより、コンテンツのバージョン管理が可能になり、頻繁な仕様変更にも対応しやすくなりました。また、翻訳にPhrase TMSを導入することで、原文の変更箇所がPhrase TMS上で自動的に表示されるようになりました。

Markdown記法によるテキスト形式への切り替え

上記のシステムで差分管理をしやすいように、原稿の制作方法も変更しました。具体的には、Markdown(マークダウン)という記法を使ったテキスト形式で原稿を作成するようにしました。Markdownでは、簡単な記法で文章構造を構築しながら、人間が見やすい形で文章を作成できます。Markdown導入の利点としては、Gitで差分を表示したときに、人間にも変更内容がわかりやすいこと、Phrase TMSに読み込んだときに、HTMLのような複雑なタグがないため翻訳しやすいことなどが挙げられます。

なお、Markdownファイルを公開する際には、HTML形式に変換する必要があります。その際に同チームではHugoというサイトジェネレーターを使用しています。

バージョン管理システム導入のメリット

製品のアジャイル開発を行うと、頻繁に仕様が変わったり、リリースのタイミングが変更されたり、リリース自体を取りやめたりといったことが起こります。とくに頭を悩まされていたのが、リリース時期が変更された結果、要件ごとにリリースのタイミングがずれてしまう問題でした。

この問題への対処に役立つのが、Gitのようなバージョン管理システムが持つ、履歴を分岐(ブランチ)して管理できる仕組みです。この仕組みにより、ドキュメントに対して、要件ごとにブランチを分けて変更を入れられます。

これにより、要件ごとにリリース時期の変更や取りやめが起こっても、ブランチをマージするタイミングをずらしたり、ブランチを破棄したりといった方法で簡単に対応できるため、CMSでの管理に比べて、負担を大きく軽減できます。ブランチをマージする前の状態に戻せることや、変更履歴の自動記録により、誰がいつどのような変更を行ったかを後から調べやすいこともメリットです。

翻訳管理システムとしてPhrase TMSを採用した理由

サイボウズ株式会社では、数年前から翻訳管理システムとしてPhrase TMSを活用しています。採用の理由としては、サービス自体の価格の安さや、翻訳者にパッケージ版やライセンスの購入を求める必要がないことに加えて、導入当時にMarkdownファイルを扱えるのがPhrase TMSだけだったことが挙げられます。クラウドで全操作が完結し、ワークフローの管理ができることも、同社にとって大きなメリットになっています。

手頃な価格や、翻訳者の方にパッケージ版やライセンスの購入を求める必要がないことに加えて、当時Markdownファイルを扱えるのがPhrase TMSだけだったことが、導入の決め手になりました。すべての操作がクラウドで完結し、ワークフローの管理ができることも、大きなメリットです。

中島 晃一 氏

サイボウズ株式会社 開発本部テクニカルコミュニケーションチーム ソフトウェアローカライズエンジニア

成果

記事作成&翻訳ワークフローの刷新

ワークフロー改善後の記事制作と翻訳のプロセスは、次のようになりました。

日本語記事作成フロー:

  1. ライターが自分のパソコンで書いた記事を、Gitの仕組みを利用したホスティングサービスGitHubに保存します。記事ファイルはここにすべて保存されます。
  2. 人間のレビュアーと自動校正機能により、記事のチェックを行います。
  3. チェックが完了して承認されると、インターネット上に記事が公開されます。

英語/中国語への翻訳フロー:

  1. GitHubから、翻訳する記事をPhrase TMSに読み込みます。ZIPファイルとして取り込むことで、コンテンツの階層を保持したままプロジェクトを作成できます。
  2. 翻訳メモリの設定等を行った上で、外注先や社内の翻訳者に翻訳をアサインします。納品やコメントのやり取りなどは、すべてPhrase TMSのクラウド上で完結します。
  3. 翻訳・レビューが終わると翻訳結果をエクスポートします。ZIPファイルとしてエクスポートすることで、階層構造を保持できます。
  4. GitHubにアップロードし、HugoでMarkdownファイルからHTMLを作成してから、インターネット上に記事が公開されます。

Markdownファイル取り込み時の工夫

同チームではMarkdownファイルのHTML化の際に、Hugo独自の拡張表記を用いています。たとえば、{{% note%}}という文字列は、記事が公開されると「✓補足」としてブラウザ上で表現されます。ただ、これをそのままPhrase TMSに取り込むと、{{% note %}}という文字列が翻訳者に見えてしまいます。

これを防ぐために、「Phrase TMSタグに変換」機能を使って、正規表現で定義した文字列を、Phrase TMSのタグに自動変換しています。これにより、内容を隠した青いタグとして表示されるため、翻訳者が誤って翻訳してしまうなどの混乱を避けられます。

機械翻訳の導入

サイボウズ株式会社では、現在のところ、ドキュメントサイトの翻訳は人間による翻訳が大部分を占めていますが、中堅・大規模組織向けグループウェア「Garoon」において、機械翻訳を導入した実績があります。

同社が2019年10月にリリースした「Garoon」のバージョン5では、製品のバージョンアップに伴う新機能の追加等により、日本語版のヘルプが大幅に加筆修正されました。日本語で約200万文字の分量があったため、人間が翻訳していては、日本語・英語・中国語の同時リリースにとても間に合いません。そこで、機械翻訳をベースに翻訳者が手を加えるポストエディット方式を導入することにしました。

機械翻訳エンジンは、有料の機械翻訳サービスを使用。Phrase TMSは数多くのエンジンをサポートしているため、その中から使用するエンジンを指定して、Phrase TMSのシステム内で翻訳に活用できました。

ポストエディットについては、コストを抑えながら作業期間を短縮するために、一文字あたりの単価ではなく、実際にかかる人月工数ベースで翻訳会社に発注を行いました。

実際の翻訳作業では、以前のバージョンまでの人力翻訳による資産を生かすため、まず翻訳メモリから100%マッチするものを確定し、残りの加筆修正されたセグメントに対して機械翻訳を行いました。

品質は機械翻訳のエンジンの性能によりますが、同社ではカスタマイズできる翻訳エンジンを利用することなどにより、品質の向上を図っています。