紙上での校正からクラウドベースのワークフローへ

Case study featured image Chizai Corporation | Phrase

知財コーポレーションは、特許翻訳を始めとする知的財産関連の翻訳に特化した翻訳会社です。創業以来45年にわたり、言語を基にした「知財総合サービスプロバイダー」として翻訳だけでなく特許・意匠などの出願用図面作成、 特許調査や海外出願の代行、翻訳講座や海外知財セミナーの開催、中国関連事業など、多岐にわたるサービスや情報製品を提供してきました。将来に向けて、変容著しい米欧や拡大が見込まれるアジアでの知財を視野に入れながら、業域を拡げて新たな課題に挑戦し、人々の役に立つ存在であり続けようとしています。

課題

複雑な手作業のプロセスを合理化する

1976年以来、知的財産分野の翻訳会社として事業を行ってきた知財コーポレーションは、事務処理面で2つの大きな課題を抱えていました。

1つ目は、翻訳者から原稿を受け取ったあと、次の工程である校正をなかなか始められないことでした。校正作業を開始するまでに、印刷やデータ調整、データベースへのステータスの入力といった事務作業が必要でした。

2つ目は、校正後に、翻訳者が再度翻訳を修正する「リタイプ」と呼ばれる工程の管理が煩雑であることでした。翻訳者に電話やメールで連絡してリタイプを依頼し、期限を決め、校正済みファイルを送信します。翻訳者はそのファイルを修正して同社に戻します。その後、同社で修正ファイルを再度印刷し、データを調整して、データベースにステータスを入力。そして、校正者が修正ファイルを確認し……と、初回入稿時の作業が繰り返されます。この煩雑さから、担当するコーディネーターにとって、リタイプはできれば避けたい工程になっていました。

校正作業でも、数値の抜けをチェックするWordのマクロ機能を使うための、文章の整形に手間がかかっていました。また、実際の校正作業では、印刷した原稿に手書きで修正を入れていました。

さらに、翻訳者が作成するコメントの該当箇所を、ページ数や行数を頼りに原稿から探す作業にも時間がかかっており、翻訳者側でもPDFファイルを見ながらの訳文修正作業が煩雑でした。全体としてデータのやり取りが増えるのも避けたいことでした。

このような課題を感じていた翻訳ITグループの柴田知恵氏は、Phrase TMSのセミナーを聞いて、「このような課題がほぼすべて解決するのでは!とピンときた」と言います。 そして、社内を説得し、2015年11月から英日翻訳部門(プロジェクトマネージャ2名、翻訳・校正者6名)でPhrase TMSを導入することに決めました。

ソリューション

充実した機能を持つTMS

Phrase TMSの6つの主な機能が課題の解決に貢献しました。

「クラウド」「ワークフロー」「メール自動送信」

Phrase TMSでは、原稿をアップロードするだけで、翻訳者・校正者・翻訳会社がファイルをクラウド上で共有できます。また、ワークフロー機能で翻訳者、校正者を割り当てることができ、各作業が完了すると、次の作業者に通知メールが自動的に送信されます。

これらの機能により、知財コーポレーションでは印刷の必要がなくなり、翻訳完了後、すぐに校正を開始できるようになりました。リタイプ依頼も最初からワークフローに組み込むことで、事務処理を大きく削減できました。

「対訳形式での表示」「コメント」「QAチェック」

Phrase TMSでは、アップロードされた原稿ファイルは、一文ずつの対訳形式で表示されます。これだけでも翻訳者の負担軽減になる上、申し送り事項を各セグメントのコメント欄に記入できるため、ページ数と行数を頼りに該当箇所を探す必要がなくなりました。

クライアントに提出する訳注の作成方法についても、柴田氏がPhrase TMSの担当者に相談したところ、「Phrase TMSから出力されるWordの対訳ファイルから、訳注ファイルにコメントを転記するマクロを作成する」というアイデアが得られ、効率が大きくアップしました。

また、従来利用していた数字チェック用のマクロに代わって、Phrase TMSエディタのQAチェック機能を利用することで、時間がかかっていた文章整形の手間が省けました。

Phrase TMSは、このボタンを押せば何が起こるのかを推測しやすいため初心者でも使いやすく、また、クラウド上でデータをやり取りできるのは、翻訳者・校正者とのやり取りに課題を抱えていた当社にとって夢のようなツールでした。導入の結果、校正の時間が約3分の1になり、関係者間のデータの受け渡しの手間はほぼなくなりました。動作の軽快さや価格も魅力です。

柴田知恵 氏

知財翻訳センター翻訳ITグループ

結果

Phrase TMSの活用の広がり

知財コーポレーションでは、Phrase TMSの導入により以下の効果が得られました(同社による主観評価)。

  • 校正にかかっていた時間を約35%削減
  • データのやり取りにかかっていた時間はほぼゼロに(90%削減)

校正の時間は約35%削減できました。また、翻訳者・校正者・翻訳会社間のデータのやり取りにかかっていた時間はほぼなくなり、作業は原稿のアップロードと翻訳のダウンロードだけになりました。

Phrase TMSの導入拡大へ

比較的、小規模の英日翻訳部門でスムーズに導入できたことを受け、知財コーポレーションは2018年4月に、同社の主力である日英翻訳部門でもPhrase TMSの導入を決めました。

導入拡大時の課題と解決法

翻訳者・校正者・プロジェクトマネージャの教育

規模の大きい日英翻訳部門では、導入は思うようには進みませんでした。その要因のひとつが教育の難しさです。すでに使用経験者が多かった英日部門とは異なり、日英部門の翻訳者や校正者は、ツール自体を使ったことがありませんでした。そのため、3名程度ずつの小グループに分けて、ツールの詳しい説明を行いました。また、操作手順の動画を撮影して常に視聴できるようにし、Phrase TMS上にお試しプロジェクトを準備しました。

プロジェクトマネージャ(PM)側では、案件数が増えるに従い、設定の確認作業が負担になり始めました。そこでプロジェクトテンプレートを使ってプロジェクト作成時の負担を減らし、これにより教育も簡素化できました。

原稿の準備と訳文の後処理

日英翻訳では、原稿形式や提出時の書式が多岐にわたるため、マクロで前処理をかけ、出力時にクライアントに合わせた後処理をする必要がありました。

また、英日・日英の共通の課題として、原稿中の表や数式が画像になっていることが多く、そのままではテキストをPhrase TMSに取り込めませんでした。これには表や数式の新規作成や、テキストボックスの追加で対応しました。

さらに、半角スペースやタブの体裁を整えるため、従来は訳文ファイルにマクロをかけてエラー箇所を検出し、訂正を行っていましたが、Phrase TMSのQAチェック機能に正規表現を使ったカスタムチェックを追加することで、マクロを使う必要がなくなりました。

Phrase TMSのさらなる導入拡大の検討

2020年以降、コロナ禍による在宅勤務の広がりを受けて、知財コーポレーションでも、業務のさらなる効率化に向けて、Phrase TMSの導入を拡大していくことになりました。

ここでポイントとなる点は2つあります。1つは前述した教育です。なるべく対面で、一人一人に丁寧に説明していく必要があります。

もう1つがPMの負担軽減です。件数が増えると、PMが原稿準備から訳文ファイルの調整までを一人ですべて担当するのは難しくなっていきます。そこで、行き着いたのが、Boxとの連携でした。

Boxとのコネクタ接続によるプロジェクト作成

Boxはクラウド上でデータを保管できる法人向けサービスです。他にもGoogle Drive、Dropbox、OneDriveといったクラウドストレージサービスがあるなか、知財コーポレーションは、容量無制限であることが決め手となりBoxを選択しました。

Boxと連携することで、データベースに依頼案件情報を入力し、翻訳者を探す作業と、原稿を準備してPhrase TMSにアップロードする作業を、別の人が並行して行えるようになりました。

また、担当者間のファイルのやり取りをクラウド上で行えるため、各工程をクラウドで完結できるようになりました。また、各業務の完了を自動で担当者に通知する、Phrase TMSやBoxのお知らせ機能も役立ちました。

知財コーポレーションでは、自社の課題を認識し、解決に向けてアンテナを張っていたことが、Phrase TMSとの出会いを生み、新しい手法の導入と問題解決につながりました。同社の専門性と先を見据える姿勢と、Phrase TMSの利便性・先進性をかけ合わせた取り組みに、変化を続けるグローバル時代におけるさらなる発展が期待されます。